魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】

老いの恐怖

新婚旅行以前の数か月はコハクが多忙だったため、ひとりで寝ることが多かった。

いや…ルゥが居たので厳密にはひとりではなかったが――冷たいベッドに入ると、心も寒く感じてしまう。

しんと静まり返った森の中にあるログハウス。

もしかしたら凶暴な魔物が出るかもしれないので夜は外に出ることができない。


そして…コハクのことも、ルゥのことも心配だ。


「コー…無茶してないかな…」


一緒に居ないと慌てて捜し回って姿を見つけてようやくほっとした顔を見せるコハク。

大切にしてくれるのは嬉しいけれど、大切なのは自分だけではなくもっと色々なものに目を向けて大切なものを増やしてほしいと思う。


「寝たくないな…。部屋を真っ暗にするの…怖い…」


ランプひとつで心細い。

眠れずに毛布を被ってもそもそしていると、外から壁をかりかり掻く音が聞こえた。

けれど窓を開けるのは怖くて、開けずに外を覗き込んでみると――二本脚で立っているウサギやあの豚がこちらをじっと見上げていた。


『こんなところにひとりでその…眠れないんじゃないかと思って…。よかったら僕たちを抱き枕にしてみない?身体はちゃんと洗ってきたから』


「え……い、いいの?でも…」


『君の話を聞かせて。どうしてここに来たのか…僕たちにできることがあったらなんでもするから』


こんなに可愛い女の子が魔物の出る森に突然現れた――

興味津々の彼らはラスに部屋に入れてもらうと、早速ベッドに上がってラスの寝床を温め始めた。


「よかった…ひとりで寝なくてもいいんだ」


『心細いでしょ?君のこと友達に言っておいたからみんなで見守ってるよ。怖いものから逃げてるんでしょ?ひとりじゃないからね』


ベッドに腰掛けたラスは、膝に上がってきた真っ白なウサギのやわらかい背中を撫でて、豚の鼻もかりかりかいてやりながらほっとした笑顔を見せた。


「ありがとう。じゃあ…私もまだよくわかんないんだけどお話聞いてくれる?」


彼らは友達ができたと喜ぶラスを守るように寄り添い、ランプを消したラスに優しい手つきで身体を撫でられてうっとりしながら話を聞いた。


恐ろしい話を。

そして傍に居てあげようと思わせる話を。
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