魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】

コハクの計画

グラースとドラちゃんがまさかの展開になっていたことはコハクにとっても想定外で絶叫ものだったが…ひとつ杞憂に感じていることがあった。


その不安を拭うためには、どうしても今やっておかなければならないことがある。


「なあデス、ちょっとこっち来い」


「………なに…」


動物たちがこんもりとした山になって昼寝しているのどかな風景を眺めつつ芝生に座ったコハクの隣に移動したデスが、膝を抱えて横目でコハクを見た。

ラスは元気になったが――コハクは逆に少し元気がないように見えていたので、デスはそれを気にしつつもいずれ元通りになるだろうと思っていたのだが…


「魔界の件なんだ」


「………うん……」


「ゼブルみてえな考えの奴はきっとまだ魔界にわんさか居る。俺はまたチビが同じような目に遭わされるのは耐えられねえ。だから……」


魔界はデスの故郷であり、居場所だった。

コハクとラスが光溢れる世界に誘い出してからはほとんど帰る機会は無かったが――それでもふとした瞬間に懐かしさを感じることもあるかもしれない。

だがコハクにとっては何の未練もなく、また崇め奉られて魔界の王に、と言われるくらいならば…


「だから…魔界をぶっ壊す。元々その予定だったけど、先延ばしにしてた。あそこが無くなればきっと…」


「……魔王…ひとつ……忘れてる…」


「は?何をだよ」


ルゥがはいはいをして動物の山に近付くと、山が割れてルゥを囲むようにして動物が群がった。

その温かさにルゥがうとうとして眠ってしまうと、コハクは笑みを消して無表情のデスを見つめた。


「………魔界の下……地獄界がある………。その下も…ある……」


「地獄界の奴らは俺や人間なんかにゃ興味持ってねえよ。それに互いの世界に関しては不干渉だろ。魔界が無くなったってなんとも思わねえだろ」


――ラスを案じるコハクの気持ちは痛いほどわかっているつもりだが…


世界のバランスが崩れると、人間界にも何かしらの影響を及ぼしかねない。

コハクはもちろんそれをわかっていつつも、ラスのためならばと目の色が変わることが多い。


「……ちょっと…待って…。…俺…考える……」


「何をだよ。お前はなんにもしなくていいんだぞ」


肩を抱いてきたコハクに身体を揺らされながらも、デスは考えることをやめない。

全てが丸く収まる方法を模索していた。
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