君のところへあと少し。
(その1)波留と和也

1

キラキラ輝く海って、宝石箱みたい。



ボンヤリと窓から眺める景色を見ながら、ハルはため息をつく。


「暇だ〜。」


喫茶店『海音』は今日も…暇だった。

と、いうより暇にならざるを得ない。

今日は夏祭り。
お祭りがある時は大抵こんな感じだ。

ハルは2度目のため息をつく。


「ケーキ余っちゃうじゃんっ!」


今日のスイートポテトはいつもより出来が良かった。
レアチーズケーキはなめらかに仕上がってて、ベリーソースもなかなか上手に出来てた。
初めて作ったマスカットのタルト、試食し過ぎてかなり減ってる。



のに。


「お客さんこなーい!」




川瀬 波留。
かわせ はる、と読む。

大抵の人が読めないというが、船員だった父が28年前につけてくれた名前だ。

みんな、ハル、と呼ぶ。

28になった。
でもまだ高校生と間違われる。
ムカつく。

スッピンだし、長い髪はポニーテールにして飾らない服装しかしない。

仕事中はいつもTシャツにジーパン、スニーカーだ。


「暇だから、ミルのお掃除でもしよっと。」


立ち上がるとカウンターへと向かう。


身長が低いからいけないのかな。
色気が出るようにセクシーランジェリーでも身につけようかしら。

いつまで経っても子供扱い。

まぁ、彼氏がいるわけでなし、過去の彼氏もはるか彼方前に居たっきりだからしょうがないとするか。


カウンター内のスツールに腰掛け、ミルをハケで丁寧に掃除する。

喫茶店の命だ。



< 1 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop