産後1ヶ月

母子同室

薬のおかげでそれなりに眠ることが出来たが、あっという間に朝は来た。


朝食を済ませベッドに横になっていると朝の回診に訪れたのは何と懐かしの「トナカイ先生」だった。


トナカイ先生とは、妊娠が判明してからずっと健診で私とお腹の中の息子を見守り続けてくれた医師。


見守り続けたと言っても彼はただ単に自分の仕事をまっとうしていただけだろうが、私は安心感のあるその笑顔に幾度となく癒された。


いつも赤い鼻をしていたので、私は親しみを込めて「トナカイ先生」と勝手に命名していたのだ。


36週を過ぎてからはまた別の先生に診てもらっていたのでもうトナカイ先生には会えないかと思っていた。


そうか、今日は院長先生がお休みでトナカイ先生の日だったんだ。


これはまあ何とも嬉しい再会。


「どうもおめでとうございました!」


トナカイ先生はそう言いながら病室に入って来た。


ああ、相変わらず癒される。


ありがとうございますと言いながら、私はひとり心の中で勝手に再会を喜んだ。


先生、とりあえず早く背中のチューブを抜いてちょうだいよ。気になって寝返りも打てやしない。


陣痛を取る麻酔を入れる為に私の背中には細いチューブが入っている。


てっきり出産が終わったらすぐに外してもらえるのかと思っていたのだが、実際は翌日の朝まで背中に入ったまま。


早起きは気が重かったが、やっとチューブを脱いてもらえると思うとさくっと起きられたものである。


先生は慣れた手つきで私の背中に入っていた細いチューブを抜いた。



そして看護師さんが仰向けになった私のパジャマを剥ぎ取った。


「おっぱいチェックしますね~」


おっぱいチェック・・。


「はい、次はおシモね」


看護師さんはそう言って私の足を広げた。


そうか、「おマタ」では無く「おシモ」と言うのね。


しかしまあ昨日からずっと、「女性が一番恥ずかしい部分」だけをピンポイントで見られている。


それも結構な数の人々に。


ここは病院で相手は医療従事者とわかっていても、こんなにも大勢の人に自分の「恥部」をさらすのは、やっぱり「何だかなあ」と言った所である。


改めて、産婦人科ってスゴい。色んな意味で。


おシモの部分だけがバッとオープンになる合理的な下着「産褥ショーツ」がめくられた瞬間、優しいトナカイ先生の顔が渋く歪んだ。


「あらららら・・」


何?!


私のおシモ、何かヘンなの?!


トナカイ先生はすぐににっこり微笑んで続けた。


「昨日ね、うんと頑張ったから腫れ上がってむくんじゃってるんだよ」


腫れ上がってむくんでる?!


トナカイ先生は看護師さんに消毒の指示を出し、病室を出て行った。
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