DECIMATION~選別の贄~

抽選


2010年6月。

一樹の失踪宣言が認められてからもうすぐ二年の月日が過ぎようとしている。

社会情勢はあまり代わりはなく、保守派の首相が一度だけ入れ替わった。

「叔母さんいってきまーす」

菜月は高校三年生になっていた。

腰の辺りまで伸びた髪。

年々短くなっていった制服のスカートの丈。

意中の人が居ないわけでもないが未だに恋愛経験は0。

叔母はあれから少しだけ優しく二人に接する様になっているようにも思う。

それが一樹の失踪宣言が理由なのか、自身の脚が悪くなっていったことにあるのかは定かではなかった。

それでも菜月はなんとなく嫌いだった叔母のことが少しだけ好きになっていた。


「朝からキーキー煩いねぇ。兄貴に会えるのがそんなに嬉しいのかい」

就職が決定して会社が始まってからは想次郎は家を出て、社宅を利用するようになっていた。

今日は月に一度だけ想次郎と会うことのできる第三木曜日だった。

「さて、テレビでも見るかね」

叔母はリモコンでテレビの電源を入れる。

「またこの男かい」

近年になりNEWSや討論番組でこの男の顔を見ないことはなくなっていた。

人気女性アナウンサーが爽やかな笑顔でそのスーツ姿の男を迎え入れる。

「さぁ、今日のゲストは昨年帝国大学の脳神経学科名誉教授になられました高崎 剛志さんにお越しいただきました。高崎先生よろしくお願いします」

高崎がコメンテーター兼ゲストとしてアナウンサーの横の席に座る。

観客の拍手とリアクションからしても高崎を知らぬ者がいないことが容易に伺えた。

「いえ、こちらこそ宜しくお願いします」

ピンと伸びた背筋、すっきりと切られた短髪、笑顔は絶やさずゆっくりと優しい口調で喋る。

そんな人間を嫌う人がそうそういるはずもなく、高崎は脳死患者に関する論文が世間に認められるのを皮切りに、瞬く間にお茶の間の人気を集めていった。

「それではこれから現代の若者達の今を追ったVTRを御覧頂こうと思います。今どきの若者達の現在。その憂いを皆様で考えていきましょう」

アナウンサーが最後にちらりと高崎を見ると、高崎は笑顔で会釈をしていた。

「かーっ、胡散臭い男だねぇ」

それを見ていた叔母がそう呟いて、リモコンでテレビの電源を落とすのだった。




< 14 / 89 >

この作品をシェア

pagetop