嘘婚―ウソコン―

*シンデレラとガラスの靴

陽平の事務所からの帰り道だった。

「……んっ?」

千広は振り返った。

そこには誰もいなかった。

今誰かの視線を感じたような…?

千広は首を傾げる。

視線を感じたから、誰かがそこにいてもいいはず。

「気のせいかな?」

千広は呟いた。

同時に、ふと思い出す。

「まさか…友美さん、とか…?」

自分が今陽平の事務所から出てきたところを見て、後をつけている…のかも知れない。

そう思ったとたん、千広は自分の顔が青くなるのを感じた。

陽平は言っていた。

怒らせると怖い、と。

「そ、そんな…ねぇ?

周さんったら、大げさなんだから…。

相手は、人間なんだよ?

話せばわかってくれる、って…」

ブツブツと独り言を呟いているその声は震えている。
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