春秋恋語り

2 二人の女性



9月の気候はなかなか落ち着かない。

その日は、夏の猛暑が戻ったような一日になっていた。

親の同席はなく、堅苦しい席ではないと思ったものの、一応の礼儀としてスーツを着込んできたのだが、駐車場からホテルのラウンジまで歩いただけで、背中に大量の汗をかいた。

ここで話をして、気が合えばどこかへ場所を移すとして……

今日のスケジュールを立てながら外を見ると、ガンガンに照りつける太陽が目に入ってきた。

真夏じゃないか、まったく……

こんなことなら、もっと軽い格好をしてくるんだった。

せめて長袖シャツを半袖にすればもっと涼しくなったのにと、ブツブツと口先を動かしていたのだが、目指す席へと目を向けた僕に、立ち上がって礼をする二人連れが見え、あわてて口元を引き締めた。

と同時に、驚きと疑問がわきあがった。

えっ、二人? どういうことだ、聞いてないぞ。

どっちが今日の相手だ?

似たような年齢の女性が二人、僕に向かって緊張の笑みをたたえていたのだった。





「お待たせしました、田代脩平です。よろしくお願いします」


「あっ、あの……小野寺です」


「ユキちゃん、名前も」


「あっ、深雪です。すみません……」 



相当緊張しているのか、苗字を言うのもやっとの彼女は、となりの女性にうながされ、謝りながら名前を告げてくれた。

そんな彼女に、もう一度よろしくお願いしますと伝えながら、アナタは誰ですかと言わんばかりにとなりに座る付き添いらしき人を見た。



「私、深雪の親戚のものです。当人同士でとお聞きしていたのですが、どうしても不安だと言うものですから、ご一緒させていただきます。よろしくお願いいたします」


「そうでしたか。こちらこそお願いします」



しっかりした受け答えに、僕ならこっちの女性が好みだけどと思いながら、そういうわけにもいかず、とにかく ”見合い” を始めた。

相手の深雪さんはかなり控えめな女性らしく、ひとことひとことの返答が慎重で、聞かれたことへどう返事をしてよいのか迷うと、となりの親戚の彼女に助けを求めるのだ。



「父の仕事を手伝っています。自営業で、あの、なんていえばいいのか……
ちいちゃん、ウチの仕事ってどう説明すれば」


「代理店経営でいいんじゃないの? ユキちゃんは事務全般でしょう」


「そっ、そうね。代理店です……」


「深雪さんが事務全般をされるってことは、資格をお持ちなんですね」


「えっ、全部じゃないです。そんなに全部は無理です」


「でも、ほら勉強中でしょう。ちゃんとお話しなくちゃ」



連れの女性に補足されながら、どうにか話をつないでいく。

一事が万事この調子なので先方からの質問などなく、僕が聞くばかりで、これでいいのかと思いながらも二時間近くの時間が過ぎていった。

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