狂妄のアイリス

狂妄

 背後に立つ。

 クリスマスツリーの飾り付けをする女の背後に、黒装束が立つ。

 クリスマスツリーを飾り付けるには似つかわしくない、沈んだ表情の女。

 それでも女はクリスマスツリーを飾っていた。

 共に暮らす家族のために、娘のために、クリスマスツリーを飾る。

 子どもの背丈ほどもあるクリスマスツリーに、赤やゴールドのオーナメントを一つずつつけていく。

 子どもの好きそうなプレゼントやお菓子の形をした、オーナメント。

 飾り付けに夢中で、女は気づかなかった。

 背後にある気配を、まるで影のような者の存在に気付かない。

 黒装束の双眸は、真っ直ぐに女を見つめている。

 目だけが露出した衣装では、その感情を読み取ることは出来ない。

 それでも、黒装束は忍び寄る。

 鈍器を持って、殺意を持って、女の背後に忍び寄る。

 そして、振り上げた。

 背後から振りおろされた凶器は、女の後頭部に鈍い音を立ててめり込んだ。

 そのまま振り抜くと、皮膚が裂けて頭蓋骨が砕ける感触がした。

 その勢いで女はクリスマスツリーに倒れ込み、クリスマスツリーも倒れた。

 クリスマスツリーの枝が折れ、オーナメントが飛び散る。

 大きな物音がして、動きは止まった。

 女は倒れたクリスマスツリーに突っ伏したまま、動かない。

 まるでマネキンのように、てんでバラバラに投げ出された手足。

 後頭部の黒髪が濡れて、そこから血が広がっていった。

 その様を、黒装束は充血した目で見下ろす。

 ただ鈍器を振り上げ振りおろした。

 それだけのことなのに、黒装束は布の下で息を荒げていた。

 もう死んだのだろうか。

 女はピクリともしない。

 黒装束の口元の布が、呼吸に合わせてうごめく。

 鈍器を持つ手が震えていた。

 それでも黒装束は倒れた女に近づき、再び凶器を振り上げた。

 さっきよりも強い力で、女の頭蓋が潰される。

 血走った目で、呼吸を乱し、手を震えさせながら、それでも黒装束は執拗に女の頭蓋を潰し続けた。

 振り下ろされるたびに女の体がクリスマスツリーにめり込み、枝が女の体に傷をつくっていく。

 クリスマスツリーについたベルが鳴り、女の手足が揺れる。

 黒髪が頭皮とともに抜け落ちて、凶器にこびりつく。

 挽肉状になって血とともに飛び散る。

 砕けた頭蓋骨の隙間から、血とは異なる液体が飛び散り、肉片とは違うものも見え隠れする。

 何度目だろう。

 黒装束が鈍器を振り上げる。

 そして、そのまま動きを止めた。

 黒装束でも女でもない、誰かの気配がした。
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