ファインダーの向こう

Chapter3

「おい、なにやってんだ」


 背後から聞こえる逢坂の怒気を含んだ急かすような声を聞きながら、沙樹は硬直していた。


(写真を撮ったら……ルミはどうなる? でも、これが真実なんだから……!)


 心臓の鼓動が鼓膜を激しく打ち、カラカラになっている口内を湿らせて冷静を取り戻すが、胃の底から沸き上がってくる焦燥感に吐き気さえ覚える。


(これは仕事なんだから……撮らなきゃ)


 沙樹が意を決し、深呼吸をして足を踏み込んだその時―――。


 カラン。


(え……?)


 つま先に当たった空き缶が、乾いた音を立ててコロコロと路上に転がって行くのを沙樹は呆然と見つめた。


「やっぱりな、誰かそこにいるのか? どうせマスコミだろ?」


 ホテルの入口へ向かう里浦がぴたりと動きを止め、そう言いながらくるりと踵を返してこちらへ向かってきた。


「おい、出てこいよ。マスコミの鼠」


 里浦がホテルに入らずに留まっていたのは、誰かに見られているという気配をすでに感じ取っていたから警戒していたのだろう。沙樹は不用意に近づいたことを後悔した。


 絶体絶命―――。


 ドクンドクンと心音が波打ち、沙樹が目を見開いて微動だにできないでいると、不意に背後から腕を取られて強く引かれた。


 刹那。
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