狂妄のアイリス

狂妄

 青白い街灯の明かりが闇を押しのけ、その下でミュールがアスファルトを叩く音が響く。

 若い女が歩いていた。

 日付が変わろうかという頃合いだったが、ここは住宅地だ。

 少し周囲を気にしながらも、通いなれた道だけに不安な様子はない。

 道に不審者はおろか、女以外の人影もない。

 けれど、児童公園の前を通りかかる。

 児童公園の濃い緑が、街灯の明かりを覆ってしまっていた。

 運悪く、児童公園の隣家は留守らしく門灯もついていない。

 児童公園のそこだけが、薄暗くなっている。

 まったく明かりがないわけではないのに、周囲が明るいだけにより一層暗い。

 葉の緑を透かした明かりはより暗く見え、緑を帯びることにより一層不気味だった。

 明るい場所に立つ女からは、そこが奈落に見えた。
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