逢瀬を重ね、君を愛す

忘れられない面影



「…蛍、これ。」


視線は紙に向けたまま。
ペラッとした紙を差し出される。
その紙を両手で受け取った蛍はさっと目を通し、軽くうなづいた。


「はい。確かに承りました」


綺麗にくるくると巻きなおし、別に用意していた箱の中へ納める。
カポッっと蓋を閉めると、その箱を抱きかかえながらいまだ仕事へ没頭する薫へ深く一礼すると静かに政務室を後にした。

良く晴れた清々しい天気の中、碧い空が広がっている。
庭の木々も色鮮やかに生い茂り、池の魚も変わりなく泳いでいる。

まさに、何も変わらない。彼女が消えてからも。
彼女が消えたことによって、世界は何も変わらない。同じように、過ぎていくだけの日々。


「なんとも…不条理ですね」


切ない嘆息を漏らし、蛍はそのまま歩みを進めた。


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