右隣の彼

あっこの結婚宣言

「えへへ♪」
私の目の前で全身から幸せオーラを振りまいたあっここと土田明子が
みんなにわかるように左手を見せびらかしていた。
その左の薬指にはとーってもとーってもかわいいサイズのダイアモンドの
指輪がその存在を主張するかのように輝いていた。

今日は月に1度の女子会。
メンバーは3名で高校からの親友だ。
一人は今紹介したあっこと主婦で6歳と4歳のママのしーちゃんこと橋本静音
そして私、津田一美、独身で現在フリーの31歳。ニックネームは特になく名前のまんまで一美

今日もこのメンバーで行きつけの居酒屋チェーン店で飲んでいたのだけれど、
まさかこの席であっこが結婚宣言するとは思わなかった。
あっこは大手出版会社勤務のバリバリのキャリアウーマンだ。
3人の中で一番忙しい人だから毎回行われる女子会の日程はあっこの都合に合わせて
やっているようなもんだった。
そんな彼女の口からまさか結婚という言葉が出るとは思ってもいなかった。
しかもその彼女の指に光る指輪は彼女のキャリアから考えると
とても比例しているとは思えないほど小さなものだった。

「相手は誰よ!」
しーちゃんが目を輝かせていたあっこに質問する様は芸能リポーター顔負け
あっこは美人だしかなりもてる。
ファッション雑誌の副編集長をやってるだけあって身につけている物も
それなりにいいものだ。
そんな彼女にふさわしい相手は青年実業家とかどこぞの会社の社長の御曹司とか
とにかく今身につけている指輪の大きさの倍以上の物をプレゼント出来る様な
相手だと思っていた。
(これは私の思いこみでもあるんだけどね・・・)
あっこはいつも見せる仕事の出来る女の顔ではなく
恋する乙女の顔で結婚相手の事を話し始めたのだが
それにも驚いた。
「23歳の美容師さん」
『えええ?!』
さすがにこれには驚きしーちゃんと声がハモってしまった。
だが、幸せまっただ中のあっこには私たちの驚きにも余裕の笑みだった。
「23って・・・8歳も年下じゃない。大丈夫なの?」
「何が?」
何がってこっちが言いたいわよ。
「たしかに彼はまだ社会的にも一人前というには少し若いと思う。だけどね、
運命だって感じちゃったんだから仕方がないじゃない。それに若い若いっていうけど
もらってくれるうちが花なんだから」
運命を感じた事がない私はどうしても頷けないが既婚者であるしーちゃんには
あっこのいう事が理解できるようで・・・
「あ~それわかるかも。私も旦那とは、運命感じちゃんたんだよね。
きっとこの人と結婚するんだって・・・」

益々わからん。

「彼、謙人(けんと)って言うんだけどね。初めて会った時に、私もしかしたら
彼と結婚するんじゃないかって・・・そう感じたのね。それは謙人も同じで
きっかけは仕事だったけど、そのうちプライベートで会う様になって
付き合って半年で彼からプロポーズされて、即OKしちゃったの」

「は・・半年?そんな・・・本当にそれでいいの?」
私の言葉にはあっこに対しての心配とほんの少しの嫉妬が混じっていた。
だけどあっこはそんな私に最大の笑顔を向けた。
「運命の相手なんて意外と近くにいるもんよ。直感を信じてみなさい!」
勝者の言葉には説得力があるけど
私の周りにいる男でそんな男がいるわけがない。
逆に私にしつこいくらい恋愛相談を持ちかけてくる
イケメンだけどヘタレな男、岸田滋(きしだしげる)3つ年下の私の部下。
だけど彼には彼女がいるし、どう考えても運命なんて感じるわけがない。

結婚か~~
したくないわけじゃないけど
それ以前の問題よね。
恋がしたい。
そう思いながら何度もあっこの光り輝く指輪をみて溜息をついたのだった。
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