ロスト・クロニクル~前編~

第五話 雪降る夜に


 肌を刺すような寒さによってエイルは、深い眠りから目覚めた。

 今日はいつもと違って肌寒く感じ、布団の中に頭を入れてしまう。

 北国出身のエイルであるが、この寒さは肌に堪える。

 一体、何が起こったのか――

 それを確かめるかのようにゆっくりと布団の中から頭を出すと、部屋の中に視線を走らせる。

 息が白い。

 この現象は冬の季節では当たり前なので、特に反応を示さない。

 その時、ドサっと何か重いものが落ちる音が耳に届く。

 その音にエイルはあることを思い出し、布団の中から抜け出した。

 カーテンを開けた瞬間、眩しい光が差し込む。

 その光に目を細めつつ窓を開くと、目の前に広がる光景を眺めた。

(積もったんだ)

 一面の銀の世界が、目の前に広がっていた。

 先程の音は、木から雪が地面に落ちた音。

 朝の日差しを浴び、雪が眩しく煌く。

 暫くすると目が慣れてきたので、暫し白銀の世界を楽しむ。

 エイルの故郷でも今頃、多くの雪が降り積もり街を白く染めているだろう。

 メルダースがある地域より北に存在するので、今見ている光景より多くの雪を体験できる。

 その反面、冬の時期の暮らしは大変だ。

 何せ、毎年のように大量の雪が降り積もる。

 それも、背丈以上に。

 メルダースに入学してはじめて冬を迎えた時、その暖かさに驚いた。

 周囲の生徒達は「寒い」と叫んでいたが、エイルは首を傾げるだけ。

 此方の冬は、クローディアに比べたら暖かい。

 しかし今日は、寒さに慣れているエイルにとっても寒い。

 こうなると他の生徒達は大変だろう。特に南方出身のラルフは、布団から出られないに違いない。

 エイルは思い浮かべたラルフの姿にクスっと笑うと、制服に着替えはじめる。

 今日は授業がない日。

 それは、今年一年の終わりを祝うパーティーが開かれるからだ。

 食堂には多くの飲み物と食べ物が並べられ、一年が無事に終わったことに感謝する。

 そして来るべき一年がより良い年であるように願い、その時を迎える。

 今日だけは、就寝時間は設けられていない。

 そう、年明けまで遊べるのだ。

 その為、皆は踊りはしゃぐ。

 いつもなら早い時間に起床した生徒の声が聞こえてくるのだが、この寒さになかなか起きることができないのだろう。

 昨年と違って、今日はやけに静かだ。

 それはまるで、雪に全ての音が吸収されたような感じであった。

 エイルは着替えを終えるとタオルを持ち、部屋から出て行く。


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