ロスト・クロニクル~前編~
第二章 進級、そして――

第一話 悪夢、再び


 大地に降り積もっていた雪が溶け、メルダースは春の陽気に包まれていた。

 木々は新芽を芽吹かせ、花々は美しい色彩の花弁を大きく開かせる。

 眠りについていた生き物達は目覚め、黄緑色の草の上を駆け回っていた。

 無論、春の訪れを喜んでいるのは人間も同じ。

 寒い時期の授業は堪え、集中できない。

 その為、冬の時期に成績を落とす生徒が多いという。

 だからこそ、春という季節は人々を喜ばす。

 だが春の訪れは、いらぬ物を招くことがある。

 そう、それは忘れ去られていた物。

 昨年の秋に捨てられ、その後は冬眠についた。

 そして、目覚めの時を待つ。

 人々は、それを知らない。だが、それは目覚めた。

 ことのはじまりは突然に。

 学園中に響く悲鳴も、それに関係していた。




 突如響いた悲鳴に、エイルは寝台から飛び起きる。

 そして何かを確かめるように周囲に視線を走らせると、再び悲鳴が響き渡った。

 その声音は、聞き覚えがある。

 そう、庭師のハリスの声だ。

 エイルは寝台から下りると、窓を開き声がした方向を見る。

 すると、隣の窓から顔を覗かせていた生徒と視線があった。

 どうやらハリスの悲鳴に、多くの生徒が起きてしまったようだ。

「な、何が起こった」

「あの声は、ハリス爺ちゃん。ハリス爺ちゃんは滅多のことで、悲鳴を上げないからね……」

 腕を組み首を傾げるエイルに、今度は下から声がかけられた。

 その声にエイルは視線を落とすと、その生徒が話す内容に聞き入る。

 この生徒曰く「天変地異が起こった」ということだ。

 ハリスが驚くことといったら、植物に関することだろう。

 その妙に説得力がある内容に、エイルを含め窓から顔を覗かせていた生徒達が全員頷く。

 そして、ひとつの結論が出された。

 植物に異変が起こった。

 暫しの沈黙が走る。

 すると全員がひとつの結論を導き出したのだろう、どの部屋からもドタバタという音が聞こえてきた。

 そして制服に着替え終わった生徒達は、これまた一斉に扉を開く。

 廊下に出た者達は互いの顔を見合すと、合図を送るように頷く。

 そして、目指す場所はひとつ。


< 205 / 607 >

この作品をシェア

pagetop