とある神官の話

復讐者の破片




 ――――???年



 ―――無駄に整った顔と、高い身体能力。そして高い確率で何らかの"能力持ち"が生まれる、そして―――太陽に嫌われ、血液を摂取しなければ死ぬ種族。

 それが、我等ヴァンパイアだ。



 迫害されたと高らかに宣言することもなく、また平和をと口にすることもない。それが過激な連中が気に入らないらしい。
 背後に迫った連中は、"仲間"を増やしたいらしい。目を血走らせて、何が悪なのか何が善なのか曖昧なまま、たた叫ぶだけ。実に「愚かな……」

 背後に向かって放つ"力"に、悲鳴。幸いに向こうには"能力持ち"であっても強い者はいない。比較的若いヴァンパイア達である。
 恨みが募り、言い聞かせられるようにして育った哀れな者もいる。


 ――――うんざりだ。




「逃がさぬぞ!アガレス・リッヒィンデル。我等の邪魔をしおって」

「何が邪魔だ。ただの人殺しだろうが」




 奴らはあちこちで"声明"を出す。故に追われる身でもあるのだ。ただの傭兵めいたことをしていた私を雇い、駒として使われていたが――――このままでは駄目だと思った。
 様々なことをしてきた私が、今更?己自身に呆れながらも、私は殺してやったのだ。怪しげな術やら宗教やらに手を染め、イカれた奴らを。
 まだ幼い子供を捕らえて、泣き叫ぶ中で切り刻み実験をするなど――――。


 私はもう疲れた。大して生きていないが、同族の死因に自殺があがるのには納得できた。孤独だった。独りだった。誰もかも置いて死ぬ。




「来るがいい。返り討ちにしてやる」




 同族は咆哮しながらかかってくる。馬鹿か。そんなんで私を殺せるとでも思ったのか?
 一人目は首にナイフを突き刺してやり、二人目は抜いた刃で首を跳ねてやった。怯んだ奴らに、私は嗤う。どうした。来ればいいではないか。殺してやるよ。

 突き立て、切り倒し、えぐる。手が足りなくなったら"力"を使えばよかった。
 だが、人数が多かった。
 最後の一人か倒れてると、引きずるように朽ち果てた建物に背を預けた。血を流しすぎたらしい。


 血を流しすぎれば、それが致命的となるだろう。黙っていれば死ぬ。わかっている――――これでいい。
 私は死を望む。
 捨てられて、裏切られて。それでも私は生きてきた。信じた。誰かを求めた。誰か。私を呼んでくれると。誰かを求めていた。馬鹿みたいに。


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