ホルケウ~暗く甘い秘密~

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(あああああああああああああああもうッ!)


正午、悪鬼のごとき形相で、りこはスーパーの中を闊歩していた。

全身から黒いオーラを漂わせながら、玉ねぎを手に取り、何個か厳選してから籠に放り入れる。


(森下、石田、山崎は要注意人物!話しかけられただけで、なんで女子に睨まれなきゃいけないのよッ!明日からどうやって回避したらいいの?)


放課後、山崎から教科書を詰めた紙袋を受け取っただけで、女子がこちらをチラチラ見て噂話を始めた。

それだけでもりこはげんなりしていたのだが、間が悪いことに、職員室を出たら森下右京と遭遇してしまった。

それからは、玄関まで荷物を持つ、断るの攻防戦である。

ただでさえ目立つ上に声の大きい森下が騒ぐものだから、野次馬根性丸出しの男子がさらに乱入してきた。

それが、午前中にまなが隼人と呼んでいた、石田である。

そんなに重くないから気をつかわなくて良いと断り、逃げるようにローファーを履いて、りこは走るように学校を出ていった。

靴を履き替えるのを面倒がったのか、二人は玄関から出ようとはしなかったが、すれ違い様にクラスメートの女子が渋い顔をして自分を見ていたことに、りこは気づいた。


(たったあれだけで!どうしてみんな、いちいち気にするのよ!一体あんた達どうやって生活してんの!?)


帰宅し、靴を脱ぐなり、りこは買い物袋を勢いよく食卓に置いた。

サニーレタスを水洗いし、ペーパータオルで水気を拭き、千切ってはサラダボウルに投げ入れる。

レモンを刻み、生ハムと一緒にサラダボウルに放り込む。
軽くブラックペッパーを振りかけ、イタリアンドレッシングで和えている間も、りこは苛立ちに支配されていた。

思えば、こんなにキレたのは玲がいじめられているのを知った時以来ではないか?


「先生方も、どうにかしてあのバカ共を止めなさいよ!普通に生活したいだけの人には大迷惑だっつーの!」


今度は絶妙な包丁捌きで、玉ねぎをみじん切りにしていく。
もはや文句を声に出しながら、りこは調理に没頭した。

結果、昼食にしては豪華すぎ、またとても女子高生1人では食べきれない量の料理が、食卓に並ぶこととなった。


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