隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話

捨てられた男


「郁美ー。ちらし寿司作ったからお隣に持って行って」
お母さんが言うので
お花見気分で隣にお邪魔。

手作り漬物も添えて
重箱を風呂敷で包み
桜の木をひとり占め。

花びらがハラハラと踊り
魔法にかかったように
動きが止まる。

桜の木って
日本人の心を動かす
何かを持っている気がする。

木の近くには
白いベンチとテーブル。

ここに座って
田辺さんは逃げた奥さんを想いながら、ひとり桜を鑑賞するのだろうか。

切ないけど
妙にその切なさが
へタレ具合と調和してそう。

他の友達は親が離婚していても
たまに離れた親に会え
甘える事ができるのに

桜ちゃんは
どうしてお母さんに会えないのだろう。

会えない約束とかしてるのだろうか。

でも
こんなにお母さんが恋しいのに

会えないなんて……。

舞い落ちる淡いピンクの花びらを手に受け
時間を忘れるくらい見入っていると

「郁美さん?」

名前を呼ばれた。
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