幕末オオカミ 第二部 京都血風編

幼いころの思い出《総司目線》



俺が江戸の試衛館に下働きに出たのは、9歳のときだった。


「沖田家は没落はしてたけど、一応武士の身分の家だったんだ。

俺が産まれる前、沖田家には二人の女子、つまり俺の姉たちがいて……

母はどうしても家を継がせる男の子が欲しくて、毎晩神頼みをしてたんだそうだ」


小さな神社に参拝していた母に、ある男が話しかけた。


その男は背がやたらと高くて、浅黒い肌をしていたらしい。


『俺がお前に男子を授けてやろう』


その男を神社の神なのだと思い込んだ母は、彼に体を預けた。


そうして授かったのが、俺だった。


「っていうのは、俺が出ていく前に正気を失っちまった母の話。

だからどこまで本当かわからねえけど」


沖田家待望の男子は宗次郎と名付けられ、それはそれは大事にされた。


しかし俺が1歳にもならぬうち、育ての父……沖田家当主が死んでしまった。


母も姉も、慣れぬ仕事に手いっぱいになる。


そんななか、2歳のとき……。


『宗ちゃん、いらっしゃい。
今日は中秋の名月よ』


お月見をするのだと言って、その日は特別に夜中まで起きることを許された俺。


しかし、縁側で丸い満月を見上げた途端……。



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