泡沫眼角-ウタカタメカド-

1人目


* * *

刑事・冬沢朋恵(フユサワ トモエ)は不機嫌だった。
というより、最近機嫌がいいことの方が少ない。
車の助手席で、長い薄茶の髪を頭ごと窓に押し付けた。


しばらく前の、とある島で起きた事件に居合わせた彼女は捜査に参加し、犯人を捕らえるのに一役買った。
しかし、本土に戻って来てみれば“管轄外”の事件に手を出すというご法度の責任として始末書を書かされ、数日謹慎。

一体私が何をしたってのよ


事件に関与したことは後悔していない。
寧ろ褒められたっていいことなのに、とむくれる。


――身勝手なところは奴に似てるな


そう上司に呟かれ、激怒したことが謹慎の一番の理由なのだが。
そこはうまく朋恵の思考から排除されているようだ。


いいことは全くないわ…。



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