身代わり王子にご用心
最終章 そして、始まる

2年目の秋に









6畳間と小さな台所、ユニットバスの1Kアパート。

この1年半暮らしてきた小さな我が家の窓際には、フォトフレームが飾られている。


今は亡きお母さんと、離れて暮らす妹夫婦。かつて共に暮らした人たち。


そして……。


「行ってきます」


無愛想なその写真に笑顔を浮かべて挨拶をし、家を出た。






「遅いわよ! 桃花ったら。せっかくの晴れの日なんだから、きっちり時間を掛けて準備したいのに!」


ロールスロイスで待っていた富士美さんに怒られてしまい、「すいません」と謝った。


すると、富士美さんはすぐに機嫌を直すと、仕方ないわねと呟いた。


「さぁ、さ! あまり時間がないから手早くかつ美しく準備しましょう。今日のために特別に染めた生地を使った袴を用意したから~」


相変わらず富士美さんは強引ぐマイウェイな人だった。


「いえ……私は普通のスーツでいいんですけど」

「ダメダメ!前にも言ったでしょ。女性であることを楽しむべきだって。袴の和服姿なんて滅多に着られないんだから。
特に今日は卒業式って大切な晴れの日でしょ。こういう時こそ日本人として、しっかりお洒落しなきゃ」


結局富士美さんにそのままラチられて、お店で半ば強引に着付けされてしまいました。


紺色に牡丹を散らせた二分振袖に、グラデーションがついた紫色の袴。長くなった髪は緩く結い、秋に相応しい花の簪を挿す。


「胸を張っていってらっしゃい! あなたは一番頑張って主席卒業なんだから!」


富士美さんに見送られ、卒業式会場であるホテルの玄関をくぐった。
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