嫌われ者に恋をしました
第1章

 (1)今年度の担当


 背筋を伸ばしてパソコンに向かう。

 黒のスーツに白いブラウス。長い黒髪は一つに束ね、目立たない控えめなメイクが小泉雪菜(こいずみゆきな)の定番スタイルだ。

 空調の音が静かに響くオフィスで、カタカタとキーボードを叩いて伝票の入力をする。内訳が不明瞭な請求は各部署に確認する毎日。

 雪菜が経理課に異動してから1年がたった。新入社員の子が配属されてきて、4月になったことを実感する。挨拶周りを終えたら、彼らは2ヶ月の研修期間を経て戻ってくる。

 緊張しながらも初々しく挨拶をする、希望に満ちた新入社員を見ていると、自分にもあんな時期があったことを思い出して胸が疼く。

 入社して5年……。雪菜は無表情な瞳に画面を映しながら静かに考えていた。

 私はこのままでいい。

 心を開かず、誰にも関わらず。
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