聴かせて、天辺の青

◇ 君との距離


翌朝、紗弓ちゃんに別れを告げてからアルバイトへ向かった。
もちろん海棠さんも一緒に。



まだ小花ちゃんは寝ていたけど、昨夜のうちに挨拶を済ませておいたらしい。
今度来る時にはもっとピアノを上手く弾けるようになっておくから、と小花ちゃんが宣言してくれたと。



とても嬉しそうな顔をして、彼が話してくれた。優しい目をしてる彼を見ていたら、小花ちゃんのことが羨ましく思えるほど。



今度の連休に英司が帰ってくることは、彼には話していない。
彼とは何の関係もないし、話す必要はないと思ったから。



英司はただの元彼で幼馴染み。もう既に特別な感情は無いし、とくに意識し合うような間柄でもない。
帰ってきて顔を合わせても、軽い挨拶程度で済ませればいいと思っている。



それでも、全然気にならないというのは嘘かもしれない。やっぱり気にはなっている。気持ちの片隅に、何かが引っかかっている感じ。



できるだけ考えないように、気にしないように。言い聞かせながら、おばちゃんの家を出た。


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