理想の都世知歩さんは、

Homesickness,Lovesickness






実家とは違って、自室を出たらすぐキッチンとダイニングに直結する新しいお家。


目覚ましが鳴る頃には朝ご飯の良い香りが部屋に充満する。

だからお腹が空いていたら起きるのは簡単だった。


朝ご飯当番が都世知歩さんの日の朝だけだけれど。当番、自分の日は早起き厳守ですから。



今日は焼き魚だ…。絶対塩加減がグッドだ…。




「お母さーん…」


目を擦りながら部屋を出ると、キッチンに立つイケメンが振り返って「誰がお母さんだ」と安定の挨拶(ツッコミ)をかましてくれる。

だってそんな、フライパンなんか片手にキメちゃって…。


「早く顔洗って箸出すの手伝え」


嗚呼、お母さん。



冷たい水で顔を洗うと目が覚める。

ここ数日でパジャマのまま家の中をうろつくのにもすっかり慣れた。私も案外順応力が高いのかもしれないな。ふふ。

私は割と本気でパジャマだけど、都世知歩さんは部屋着って感じだ。ジャージとかスウェットとか。

しかも脚が長いからかたまに丈が足りないのを履いている。ふふ。今度本人に言ってみよう。



しかしまあ、私も今日みたいに穏やかな朝でも呑気にふふふふばかり言ってられなかった。


ただでさえ私の歳に頭を抱える姿を目にしてしまった以上、都世知歩さんには恥ずかしくて言えない悩みがあった。



その名も、ホームシックだ!!!!




「アコメ、冷蔵庫から牛乳も出して」

「はい」


並べたコップに牛乳を注ぎながら、それを向かい合う2席に置きながら、よしと言われて席に着きながら、私は、お母さんみたいな都世知歩さんの背中を見て何度目かの涙が滲む。


「おかあさん」


チラ、と私を横目に「黙りなさい」と言うお母…都世知歩さんは炊き立ての白米を乗せたお茶碗をダイニングテーブルに置いて席に着いた。


「「いただきまーす」」



「アコメ、何かあるなら言え。っつうか鼻かみたいならかめ。料理以外の不満なら聞いてやらなくもない」


「何でもないです…」

「嘘吐くな、言え」

「……都世知歩さんと朝一緒するようになってから毎日牛乳飲んでいますが、続けたら都世知歩さんみたいに長身になれますか」

「ならない時もあるかもな。でも骨が強くなるぞ。折れにくくなる」

「都世知歩さんはまだ強くなりたいんですか」

「ああ」



もっぐもっぐと口いっぱいに頬張って朝ご飯を食べる都世知歩さん。意外だ。





< 11 / 268 >

この作品をシェア

pagetop