音楽が聴こえる
5.ボディセッション

side 茉奈

◇◇◇
いつもならこんな地味スーツで、悟の家に行くことは無い。

でも今日のあたしは、家に帰るのすら億劫だった。

普段は駅を出て右へ曲がる道を、真っ直ぐに悟のマンション方向へと突き進んだ。


いつもの如く天使を撫でてからエレベーターに乗り込んだ後で。
お店が定休日でも悟は家にいるのだろうか? と後れ馳せながらに考えた。

もし居なかったら……ピアノに触って帰ろう。

そっとドアを開けて玄関を見ると、悟愛用のコンバースがあった。

一足だけだ。

あたしからの電話を鬱陶しく思ったのか『勝手に来い』と言われて以来、そうしているんだけど。

金曜以外の日は、いつも緊張する。

他の女がいたらどうしようって、頭の片隅で考えちゃうから。

そんな時が来ても、あたしは笑顔で悟と話せるんだろうか。


廊下をそっと歩き始めると、すぐに一番出前のドアから、灯りが滲み出ているのを見付けた。

楽器の部屋だ。
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