冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う






茅人さんがどうしてこの場にいるのか、全くわからない。

紬さんの友達。

確かに、かなり親しい関係であることは知っているけれど、父さんが運び込まれた病院にどうしているのかわからない。

首を傾げつつ答えを待っていると、茅人さんが口を開いた。

「あまりにも紬が幸せそうにしているから……それに、知らなければその方がいいこともあるんじゃないかと思っていたんだ」

「紬さんが、幸せ?」

茅人さんの言葉に促されるように、隣にいる紬さんを見上げた。

心なしか赤い頬は、茅人さんの言葉を認めるものなのだろうか。

「幸せ……」

そう呟いた私に、照れくさそうに顔をしかめると、紬さんは私の頭をくしゃりと撫でた。

「ああ、瑠依との結婚が決まって、一生瑠依の側にいられる権利を手にしたんだ。
幸せに決まってるだろ。……そ、それほど驚くことか? 見るなよ」

「あ、ごめん。でも、だって……紬さんがあまりにも素直すぎるし、それに、それが幸せって、なんだか簡単だね」

「簡単って、簡単に言うなよ。大切な女と一緒にいられることほど幸せなことはないんだからな」

「た、確かにそれは、ごもっともだけど。……紬さんがそんなことを言うと、私も幸せだなって思えるから不思議」

「瑠依だって幸せに決まってるだろ? 俺と一緒にいて、幸せを感じないなんて、許さねえし」

ぷいっと顔を背ける様子のぎこちなさ。

そして、赤い首筋からは紬さんの恥ずかしさと本音が見て取れる。

最近の紬さんの素直な言動と態度には驚かされてばかりだけど、私にはそれに対する免疫ができたのかもしれない。



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