「竹の春、竹の秋」

7.

 痛いように微笑んだ笑顔が何かに溶かされていくように薄らいで、タクミは優しい甘い顔で、薫を見つめた。そして、何を見つけたのか、何度か瞬きをすると、
 「喉仏が・・・・」
 と触れそうで触れない指先で喉元を指差した。
 「うん。似合わないよな…」
 薫は自分の喉を抑えた。知っている。自分の中性的な顔立ちにこの喉仏は少し違和感があった。鏡を見るたびに、自分ではないような気がする箇所だ。
 「いいや。そんなことない。俺は、好きだよ」
 大概は「意外だ」とかいう言葉で不似合いであると告げられるそこを、愛しげに眺める男の言葉にきっと嘘はなく、薫は少し戸惑った。タクミの手は指を指した形のままそっと膝に下りた。その手を目線で追えば、自分の細い膝頭が、ほとんどぶつかりそうなほどタクミのそばにあった。その目線に誘われるようにタクミも薫の膝もとに目を落とす。
 「細いね。」
 とタクミはカウンターからグラスを受け取って言った。
 「足?」
 「うん。足も、身体も細いけど、膝頭がこんなに小さい。」
 「そうだね。」
 そういいながら、でも、彼は薫の足に触れようとしなかった。それだから、ということもないが、薫は自分の膝頭と、タクミの膝頭を比べるように手で包む。タクミの長い足がトン、と床を打ったのは、少し高めの椅子のステップから足を下ろしたからだった。なだらかに伸びた脚。膝から、そっと太ももまで手を滑らせると、タクミはその手を追いかけてぎゅうと握った。
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