冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う






茅人さんは紬さんの大学時代からの親友であり、将来は父親の跡を継ぎ社長となることが決まっている。

大企業の後継者という将来が決められ、それに向かって育てられた紬さんと茅人さんは、その境遇だけが理由ではないにしろ意気投合し、親しい付き合いを続けてきた。

紬さんのお父さんと茅人さんのお父さんには以前から仕事上の付き合いがあり、それを知った二人の仲はさらに親密なものになった。

後継者としての苦悩。

それ以外の道を選ぶことを許されなかった日々。

そして、敷かれたレールから降りる勇気を持てなかった自分への嫌悪。

それらは、紬さんや茅人さんの立場に置かれなければ理解できない負の感情だ。

端から見れば、生まれた時から経済的な苦労は一切なく、滅多なことがない限りは大企業のトップの椅子に座ることができる人生は羨ましいものだろうけれど。

得られる幸せ以上の重荷を背負う覚悟を持たない限り、それは逃げ出したいだけの人生だ。

けれど、紬さんも茅人さんも、そこから逃げ出すことなく自分の運命を受け入れ、父親から社長職を引き継ぐと決めている。

一方、同じ境遇に立たされた私の父さんは、重荷を重荷としてしか受け止めることができないまま逃げ出した。

その姿を見ているだけに、紬さんや茅人さんの強さや、現在の立ち位置の不安定さはよくわかる。

わかるだけに、、私は紬さんの側で彼を支えていかなければ、と思う。




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