むとうさん
本当の気持ち

曖昧な約束

むとうさんはご飯を食べに行くと必ず自分でメニューを決めない。

私がメニューを決めて、私と同じものを食べる。

「むとうさんって普段昼食とかどうしてるんですか。」
「どうって出前とって普通に食ってるけど。」
「いや、なんか毎回同じもの食べてそうですよね。」
「なんだよそれ。適当にそん時食いたいものくってるよ。」

食事に興味がなくてメニューが決められない人なのかと思った。連れてってくれるのはすごく美味しくて高級な店ばかりなんだけど、それも付き合いが多いから知ってるのかと思った。

メシ風呂男的に、面倒くさいことを全部私に任せてるのかな。

一つ言えることは、2人でご飯を食べる時間を作ってくれるのが、私にはすごく貴重で嬉しいということだ。

***

この前からむとうさんを見かけない。

spaceでも見かけないし、福富町にもいない。

まずは柏木さんとこいけば会えるよねという常連同士の暗黙のルール。
それにむとうさんの家は知らないけどこの一帯でよく出くわすし、あえて約束をしてご飯を食べに行く時もそうやって偶然会った時やspaceで飲んでる時に日程と時間だけきめてむとうさんが私のマンションの下まで迎えに来ているというパターンだから会っていない間の連絡は取り合わなかった。

電話したのは、あの日の翌日だけだ。

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