口の悪い、彼は。
5.ツンツンリーマンの気持ち。

1

 



あの後、部長とふたり、オフィスを出た。

……正確には、今朝部長に提出していた資料で誤字があって、屋上からオフィスに戻った途端いつものように怒られてしまって、すぐに帰れたわけではないんだけど。

もしかしたら誤字の指摘をするために私を探していたんじゃないかと思いながらも、指摘されたところの修正をしてOKをもらい、ようやくオフィスを出ることができたのだ。

オフィスを出た後は何があるわけでもなく、以前部長と帰りが一緒になった時と同じように、1階のエントランスで部長と別れた。

あまりにも何もなさすぎて、やっぱり部長とのキスは私の妄想だったのかもしれないと思いながらぼんやりと帰り道を歩いていると、後ろからパンッとクラクションを鳴らされた。

考えごとをしていたこともあって一拍置いた後に何だろうと後ろをゆっくり振り向くと……そこには車に乗った部長の姿があった。



……そして、5分後。


「……私、自分の家の場所、部長に言ったことありましたっけ?」


部長に促されるまま車の助手席に乗り込んだ私は、目の前にある光景を呆然と見ていた。

そこは私が住むマンションだ。

部長と私を乗せた車は何の迷いもなく、そのマンションの駐車場に入っていく。


「自分で言っただろう?もう忘れたのか?」

「あれっ、そうでしたっけ?すみません。えっと……送ってくださってありがとうございます」

「は?送るって何の話だよ」

「う、あっ、そんなわけないですよね~!すみませんっ」


一瞬でも、部長が家まで送ってくれたんだと嬉しくなった自分をバカだなと思いながらも、じゃあ何でうちのマンションに来たんだろう……、という疑問が浮かんで考えていると、車がある駐車スペースに止まった。

切り返しを一度もせずに、バックで真っ直ぐとそのスペースに車は納まる。

 
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