名前を教えてあげる。

・Love Sweets





シンプルな黒いチェスト、大型テレビ。壁際に置かれたコンソールデスクと椅子。

無駄なものが省かれた部屋だった。


けれど、そのよそよそしさが帰る家のない者に安心感を与える。

客用のベッドはシングルで、窮屈だったけれど、美緒と順はぴったりと寄り添い、羽毛布団にくるまった。


「……美緒、眠れねえ?今日はいろんなことがあって、疲れているはずなのに」


真っ暗な部屋の中で、順の声が響く。


「…うん。いろいろあり過ぎたかな……でも、良かったな。ヒロさんがメチャいい人で。中華もすごく美味しくって。あんなの初めて食べたな…」


美緒は、仰向けに寝たまま答えた。


「ああ。ヒロは昔から俺の味方さ。
うちの母親、俺が小さい時、甘いもの、ケーキとかチョコレートとか一切食わしてくれなかった。虫歯になるからって。歯列矯正してたせいもあるけど、
誕生日ケーキは、毎年手作りの甘くないスポンジケーキ。

ヒロだけが、帰国するたびに土産にチョコレートハニーヌガー買ってきてくれてこっそり食わせてくれた。
時々、ばれて、2人で怒られてたけど。

あ、ヒロは俺の母親の弟なんだ。ああ見えてもう40歳」

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