倦怠期です!

12

今年のバレンタインデーは日曜日ということもあって、産業部のみなさんには12日の金曜日に、倉本さんと二人で買いこんだクッキーを、朝のお茶とともに配った。

毎年バレンタインデーにはチョコをあげているのか、倉本さんに聞いてみたら、チョコは嫌いな人もいるからクッキーをあげていると、倉本さんから教えてもらった。
私の前にいた大野さんの時は、担当している課の人たちに、それぞれあげていたけど(部長には二人であげていたそうだ)、何をあげたらいいのか、悶々と悩んでいる私を見兼ねたのか、「じゃあ一緒にあげようか」と救いの手を差し伸べてくれた倉本さんに、私は「おねがいしますぅ!」と泣きそうな声で答えた。

ううぅ、有澤さん、ありがとう!
私はまた、心の中で合掌する。

数種類のクッキーは市販のものだけど、それを袋に小分けするという手間と工夫を、少々凝らしてみた。

「数はそんなに入れなくていいの。これはいわゆる義理だから。それに高価なものや、懲りすぎたものをあげても、みんなが困るからね。でも日頃お世話になってる感謝の気持ちは、たくさん込めようね」

という倉本さんの意見に賛同した私は、透明のセロファンみたいな袋にクッキーを4つ入れて、リボンじゃなく、シールやテープを使うことで、極力派手さを抑えた。

日にち的には15日のほうが近いんだけど、その日私は特約店研修だから、会社にはいない。
それに、金曜日にあげて、週末消費してもらったほうがいいと思うし、日にちが遠いほうが、義理度が増すっていうか・・・。
なんて考える私って、やっぱり実用面しか考えてない?

とにかく、そんな私の思いなど知らない営業のみなさんは、笑顔で「ありがとう」と受け取ってくれた。
あぁよかった。
私は、締日の達成感とはまた違う安堵感を抱きつつ、心からホッとしていた。

そして私は、産業部の営業のみなさんの他に、公共部にいる同期の水沢さんにも、こっそりとクッキーを渡しておいた。

一つは水沢さんに、もう一つは、水沢さんの彼女さんに。
これはもちろん、倉本さんとのコラボじゃなくて、私の完全自腹だ。
水沢さんは彼女さんから本命チョコをもらうはずだし、彼女さんにもあげるから、産業部のみなさんにあげたように、クッキーはあえて少なめにしておいた。
彼女さんにはヘンに勘違いしてほしくないと私が言うと、水沢さんはケラケラ笑いながら、「ホント、すずが考えそうなことだよな。とにかくありがとー」と言いながら、もらってくれた。

同期の水沢さんにあげた、ということは、同じく同期の有澤さんにも別口であげたほうがいいのかな。
でも有澤さんには、産業部のみなさんにあげたクッキーをあげるし。
でも有澤さんには、日ごろからお世話になってるし。
だったら、冷熱1課と2課のみなさん、特に中元課長や因幡さんにはお世話になってるし、お父さんの件では迷惑かけたし・・・。

うわーっ!どうしよーっ!!もう分かんないよーっ!!!
と最後、パニック状態に陥った私は、結局水沢さんにあげたのと同じクッキーを、有澤さんにあげた。

もちろん、こっそりと。

「他の人には内緒だよ」
「分かった」
「絶対言わないでね。特に小沢さんには・・・」
「わーったわーった」
「あの・・有澤さん、クッキー好き?食べれるよね?」
「あぁ、いけるでー」

あ。有澤さん、会社で関西弁出た。
ということは、気が緩んでるのかな。
でも、有澤さんの関西弁を聞いた私は、なぜかホッとした。
それとも、私がホッとしてるのは、有澤さんが二カッと笑ってるからかな。

「すず」
「はい?」
「ありがとう」

と言った有澤さんのイントネーションは、「と」の部分にアクセントがついた関西風で。
私はそう言われるまでずっと、二カッとしていた有澤さんのハンサムなサル顔を見ていたことに、後で気がついた。

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