倦怠期です!

13

「ごめんね。ありがと・・・」
「それよかおまえ、研修から戻って来てから、俺のこと避けてないか」
「・・・は。気のせいでしょ」

私はシートに寄りかかってぐったりしたまま、そう言った。
棒読み状態なのは、熱があるせいだもん。
怒ってるせいじゃないもん。
・・・大体、何で有澤さんに怒らなきゃいけないのよ。

なのに有澤さんは、「んなこたぁお見通しだ」みたいな感じで、フンと鼻で笑った。
もう。なんか余裕アリって感じの態度が癪に障る。
・・・なんて、妙につっかかってしまうのは、熱があるせい・・・いいや。
大人になりたいと思いながら背伸びしつつ、可愛げのない、つんけんした態度でみんなに接するのは相変わらずだ。

「俺、何か気に障ることしたか?言って・・・」
「なんで・・・・・・・・」
「おーい!“なんで”で終わるな!続き言えや!余計気になるやん!」

と畳みかけるようにツッコミ入れられた私は、有澤さんの低い声が頭にガンガン響くーと思いながらも、やけ気味に「なんでクッキーもらったのよ!」と叫ぶように言って・・・。
今度は自分の声が頭にガンガン響いて、クラクラきてしまった。

「・・・は?なんやそれ」
「かっ、カノジョ、いるんでしょ?なのになんで・・」
「ちょっと待て。なんでおまえはいきなりそんなこと言うんだよ」
「見たもん。研修の終わりの日。夕方の5時過ぎくらいに有澤さん、横浜駅の近くにいたでしょ」
「ああ・・・いた」
「一人じゃなかったよね」
「・・・ああ」
「製作所の近藤さんと一緒だった・・・」
「おまえ、近藤さんのこと知ってんのか」
「知らない。でも藤沢支店の松田さんが教えてくれた」
「あー・・・・・・」

そのながーい沈黙は何。でも・・・。

有澤さんは、熱があってフラフラしている私を、わざわざ車で送ってくれてるんだ。
いくら同期でも、仲良くしてても、そんな・・・プライベートすぎることまで私に言う必要なんてないのに。
私一人で勝手に怒って、むくれて・・・ホント、私って子どもだ。

私は、ブスッとした顔のまま両目をつぶると、「ごめん」と謝った。

「私、熱が出ると、いつも以上にワガママになるから・・・」
「なんやそれ」と有澤さんは言うと、ククッと笑った。

それだけで、ピリピリした車内の空気が和んだような、私のフラフラも和らいだような気がした。

「確かにあの日、近藤さんと会った。彼女からは前からつき合ってほしいって言われてたんだ」
「えっ!?それ告白・・・じゃん」
「だなー。でも俺、断ったし。あの日会ったのは、どうしても会いたいって言われて・・・チョコ渡されたけど、受け取らなかった」
「あ・・・そぅ」
「近藤さんとは仕事で顔合わせるから、つき合うことになっても、つき合わなくても、それに関係なく、仕事ではいい関係でいたいんだよな」
「なるほど。そうだね」


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