王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

・やさしい夜に






キットは怒っているのではない。

ただエリナがあまりに簡単に自分以外の男にキスをすることを受け入れるから、おもしろくないのだ。


(要するにただの嫉妬だよ。自分でもわかってるっつーの)


キットはある部屋に忍び込み、音を立てないように移動しながら、思わずひとりで唇を尖らせていた。


彼が怒っているとすれば、それはエリナが"大事にされる"ということにあまりに鈍感だからだ。

男が好きな女を大事にするっていうのがどういうことなのか、彼女は全くわかっていないと、キットは思う。

まあでも、それはいいのだ。

さっき薔薇園で彼女を抱きしめた瞬間に、そういうことは全部自分が嫌というほど教えてやるのだと、心に誓ったのだから。


だからこそ、キットはエリナにキスすることをやめた。

大事にすることもされることもわかっていない、本気の恋などできないと思っている今の彼女にキスをしたところで、結局自分がこれまでの男と同じになってしまうことは目に見えている。

迷子のような彼女の手を引くのは自分だと思いたいし、もう単なる弥生の弟というポジションに戻る気もないのだ。


(……まあ、堪えたのはかなりギリギリだったけどな)
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