倦怠期です!

11 (最終話)

「あーっ!父さんっ!」
「なんや」
「俺のゴム、使っただろ」
「あぁそうやった。わりいわりい」と夫は言いながら財布から千円札を一枚、遼太郎に渡した。

ちょっとそこの夫と息子!
朝からなんて会話をしてるのよ!

私は額に手を当てると、嘆くように大げさな溜息をついた。

「これで買っとけ」
「やったー。サンキュー」
「お。雨降ってるな。日香里、大学まで乗せて行こうか」
「ほんとう?じゃあおねがーい」
「遼は」
「んじゃ俺も学校までよろしく」
「時間は・・・同じ方向だし、大丈夫だな。マイカちゃんも乗せて行こうか?」
「あー。あいつ、朝練するって言ってたから、多分もう家出てると思うけど。一応寄ってもいい?」
「いいよ。おまえは?」
「今出ても早く着き過ぎるからいい」
「あぁ、そうだよな」
「じゃあいってきまーす!」
「はい、いってらっしゃい。気をつけてねー」

狭い玄関でドタバタと靴の履き合いを済ませた夫と子どもたちが、慌ただしく家を出た途端、家の中はシーンとなった。

・・・夫や子どもたちとあまり会話もなく、あまり顔を合わせないすれ違いの毎日は、相変わらず。
それでも以前のように、単調で退屈で、置いてきぼりにされてると感じなくなった代わりに、そういうものだと思うようになった。

それは諦めとは違う。
仁さんや日香里と遼太郎と一緒に暮らす毎日こそが、私の日常。
夫のために、子どもたちのために、そして私自身のために家事をして、みんなが暮らす「家」を整え、みんなで「家族」を築いていくことが、私が選んだ人生なのだ。

だから毎日退屈だと思っても、毎日楽しいと思っても、結局そういうものなんだよね。

私は満足気な笑みを顔に浮かべると、「さ、私もしたくしよ」と呟いて、リビングへと入っていった。
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