マネー・ドール
他人な家族

(1)

 卒業の年、大卒の就職率が最悪で、周りにも就職浪人する奴や、院に進む奴が多発していた。
 が、俺はそんなことは関係ない。在学中に税理士試験に受かり、親父の『紹介』で大手の公認会計事務所に就職した。仕事は多忙で、毎日毎日、九時十時まで残業で、空いた時間は公認会計士の勉強をして、家には寝に帰るだけの生活になっていた。
 一方、真純は、中堅の家具メーカーに就職し、広報部に配属された。カタログや広告のモデルに抜擢され、真純の美貌は、さらに洗練されていった。とにかく社内外問わず、モテるらしい。俺の買った覚えのないブランド品が次々に増えていた。真純の物欲はどうやら満たされているらしく、俺には何もねだらなくなった。となると、俺は真純を抱けない。休みの日やたまに早く帰った日は、真純をベッドに誘ったけど、真純は生理だとか、頭が痛いだとか言って、あからさまにセックスを避けた。
 他にオトコができたのかと思って、情けないけど、携帯を見たり、部屋の中を物色したけど、それらしきものはなくて、オトコのニオイはまったくしない。どうやら、この見覚えのないブランド品達は、見返りのないプレゼントのようだ。
このプレゼントの送り主達は、真純の体が欲しくて、安月給をはたいて買ってんだろうな。バカな奴ら。
俺はわけのわからない優越感に浸っていた。浸っていたけど、俺の体は浸らない。風呂上がりのキャミソールとホットパンツで歩く、リアル峰不二子がいるのに、俺は手を出せない。ベッドの隣にいるのに、何もできない。そんなバカなことがあるか。
 仕方がない。その悶々としたストレスは、他のオンナにぶつけた。
……いや、待て。セックス部屋でケンカしてたじゃないか。女が酒の席にいたって。
ヤキモチ。そう、オンナはヤキモチを妬く。
 バカな俺は、わざとらしく真純の前で他のオンナと電話したり、ホテルのボディソープの匂いをさせてみたり、シャツの首に口紅をつけてみたりした。だけど、真純は見向きもしない。携帯をリビングに置きっ放しにしても、興味も示さない。イライラした俺は、オンナを家に連れ込み始めた。ベッドにオンナの髪を落としてみたり、口紅の残るグラスを流しに出してみたり。
 でも、真純は、俺が他のオンナと寝たシーツを平然と洗濯し、シャツの口紅を一生懸命落とし、当たり前のようにグラスを洗った。
そう、真純は俺になんか興味はない。俺が他の女と寝ようが、二人のベッドに入れようが、関係ない。
そうだった。真純が欲しいものは、金だったんだよ、忘れてた。ああ、バカみたい、俺。
あの女が俺に気持ちをよこすわけ、ないんだよ。

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