麗雪神話~麗雪の夜の出会い~

数日後、ディセルの部屋に来客があった。

消え入りそうに控えめなノックの仕方は、セレイアとは明らかに違う。

「あの…ディセル様」

遠慮がちな声は、聞いたことがある。誰だったろう。

ディセルが泣き疲れた頭でぼんやり考えていると、その声は続けた。

「ディセル様。私です。クレメントです。どうか、ドアを開けてくださいませんか」

「…クレメント?」

なぜクレメントがこんなところに、と思ったが、きっと自分ではだめらしいと悟ったセレイアが、とにかくディセルを元気づけたくて、呼んだのだろうと思った。

セレイアの狙いは正しい。

クレメントなら、会っても構わないと思っている自分がいる。ちょっとの間共に過ごしただけだが、彼の誠実な人柄には信頼がおけると思っていた。それに、同じ男だ。

ディセルは、数日間閉ざされたままだった扉を、そっと開けた。

ディセルのやつれた顔を見ても、クレメントは別段驚かなかった。

クレメントの優しげで穏やかな顔を見ると、ディセルは突然何もかも話したい衝動に駆られた。

「…入っていいよ」

「ありがとうございます」
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