10回目のキスの仕方

はっきりと、嫌い

* * *

 圭介と仲直り(?)をしてからというもの、穏やかに日々が過ぎた。美海は3週間かけて圭介から借りた本を読み終え、チョコと一緒に返した。今度はドアに掛けずに直接。
 圭介がなぜあの夜、ああして自分を引き止めたのか、どれほど考えても美海には答えを出せなかった。それに対して、なぜと問う勇気もないまま、ただあの時の頭に残った熱だけを鮮明に覚えている。

「…なんだったんだろう…。」

 不思議なのはそれだけじゃない。それが嫌ではなく、むしろ心地よいとまで感じてしまっている自分が不思議で仕方がない。恥ずかしくて、熱くて、心臓がうるさくて、泣きそうになる。そんな感情たちがどっと押し寄せてきて、頭は困っているのに、気持ちの中は困っているだけではない。

「んー?どうした、美海ちゃん。」
「て、店長!す、すみません!ぼーっとして…。」
「いえいえ。最近の美海ちゃんは可愛くなってて、見てて私が楽しいし。」
「ええっ!?そそそそんなことはっ…。」
「自分では気付かないものよ~。」
「っ…。」

 今日は金曜日。今週からシフトが増え、金曜日が追加されたのだ。金曜日は店長と美海ともう一人いると聞いた。

「あの、店長。」
「んー?どしたー?」
「あの、…もう一人、今日はシフトに入ってるって…。」
「あーうん。その子高校生だから、学校のあとちょこっとだけなのよ。」
「高校生、ですか。」
「そう。玲菜ちゃんって言うんだけど…。」
「え…?」

 玲菜、という言葉に、一瞬身体が凍った、その時だった。

「てーんちょ!こんにちはー!」

 17時5分前。ワイシャツに黒のパンツ、その上にエプロンを着るという完璧な書店員スタイルで登場したのは忘れもしない、あの顔。

「玲菜ちゃん。」
「っ…。」
「あー!圭ちゃんの…!」
「へっ…?」
「……。」

 玲菜が指をさす先にはもちろん美海がいる。
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