僕と、君と、鉄屑と。

(3)

 さて。どうしたものか。自分で連れてきたものの、こんなに粗雑な女、どうしろっていうんだ。
「で、何をすればいいの?」
「まずは、言葉使いですね。それから、マナー、ファッション……その前に、その髪とメイク、どうにかしましょうか」
僕は麗子を車に乗せ、社長行きつけのヘアサロンへ向かった。
「ねえ、何が目的なわけ?」
「社長は、あの通り、仕事しか興味のない方なんです。でも、社交界では、やはりパートナーがいた方が、見栄えがする。今の時代、ビジネスとプライベートは、両立することが必須要件ですから」
「ふうん。それで、嫁さんを買いに来たってわけ」
「そうですね」
「あの人、何歳?」
「三十二です」
「へえ、三十二で、こんな大きな会社の社長なんだ。あ、二代目とか?」
「この会社は、社長が学生時代に起業したんです。……社長のこと、ご存知ないようですね」
「知らない」
知らない……まあ、その方が、都合がいいかもしれないな。

 野間直輝。ビジネス誌やサイトを見ていれば、どこかに必ず出ている。学生時代にIT企業を立ち上げたが、時代はもうITではなくなっていた。ITに固執する企業に見切りをつけ、人材ビジネスにいち早く切り替えた彼は、『ITオタク』を寄せ集め、『プロフェッショナル』を売る。それが彼の、ビジネス。不況の時代に売れるもの、それは、情報と人間。野間直輝は、社会の片隅で蹲っていた人間達を、仕入れ値ゼロで、高値で売りさばいた。今では、誰もが知る、いや、知らない人間が僕の後ろでタバコを吸っているけど、まあ、だいたいのビジネスマンなら知っている会社に、瞬く間に成長させた。
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