僕と、君と、鉄屑と。

(2)

 ふむ。そろそろ、社交界デビューさせてもいいかもしれないな。あの様子なら、彼の恋人として、世に出しても、問題ないだろう。もうすっかり、野間直輝に似合う女になった。
「来週、パーティがありますので、社長に同伴していただきます」
「えっ? 本当? やっと? やっとあの人に会えるのね?」
麗子は嬉しそうに笑って、僕に、抱きついた。
「ちょ、ちょっと、麗子さん……」
「嬉しいの! ね、何を着ればいい?」
ふむ。女というのは、わからないものだ。髪型と化粧と、着ている物が変わっただけで、中身まで変わってしまうものか。
「イブニングパーティですから、少し、華やかなものを」
「華やかな、ね」
季節は、桜が散って、夏に移ろうとしていた。佐伯麗子は、僕が思っていた以上に、野間直輝の妻に、相応しくなっていた。
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