あなたと恋の始め方①

研究所大騒動

　水曜日。

　
　私はいつも通りの朝を過ごしているつもりだった。今日は折戸さんが研究所に来る日だと私は知っている。久しぶりに折戸さんに仕事をしている場所で会うから、ちょっとだけ緊張していた。学生の時にお母さんが授業参観に来る時の雰囲気を思い出していた。


「なんか変な気分」


「何が変だ？」


　何も知らないのか、知っていても興味がないのか中垣先輩はパソコンを見つめ、眉間に皺を寄せている。普段なら私の独り言なんか綺麗に流すのに、今日に限って流してくれなかった。


「別に何もないです」


「ならいい」


「すみません。コーヒー買ってきます」


「それなら俺のも。早くコーヒー豆を買ってこい。さすがに二日も缶コーヒーじゃ我慢できない」


「はい」


　昨日の夕方にコーヒー豆が切れているのは気付いていたけど、時間的に買いに行くことが出来なかったので、今日の夕方にでも買いに行くつもりだった。でも、研究職の中垣先輩だけでなく私もコーヒーなしの研究は苦痛で仕方ない。


　そんな思いで研究室から出て廊下を歩いているといつもと違う雰囲気を感じた。静岡営業所は今までにないくらいに色めき立っている。廊下の端に置いてある自動販売機で缶コーヒーを買うと、視線は廊下の反対側の先にある人ごみに吸い寄せられる。


　廊下の先には白衣を纏っている女の子がたくさん集まっている。


　まさかもう来たの？？？

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