届屋ぎんかの怪異譚



――――――――――


「喧嘩でもしてたの? 息子さんと」



一仕事終えて山林へ戻る途上、銀花は傍らにたたずむ白い影に言った。



『どうしてわかるの?』



影が尋ねるその声は、大人の女のものだ。



「だって、息子さん『ごめんなさい』って言ってたもの」


『鋭いのね』


影がくすくすと笑った。



『くだらないことだったのよ』



女はぽつぽつと語りだす。


『隣村に妹が住んでいてね。

その妹が産気づいたとかで、手伝いに来てくれって知らせが来たのよ。


それがちょうど、あの子の誕生日の前日で』


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