だめだ、これが恋というのなら
第一章

恋はしない



『司』


背後から呼ばれ、振り返った先には経済学部のクイーン、大島 雪奈が俺に手を振っている。


俺は興味のない女に手を振ることもせずに、そのまま体を戻し、進もうとしていた方角へと歩みを進める。



『司ってばー』

当たり前のように、俺の腕に自分の腕を絡ませ、俺の腕に頭を擦り付けてくる。



『何?』


俺が冷たく言い放つと、雪奈は俺の腕を引っ張り、


『冷たくしても無駄だよ、司?』


そう言って、背伸びをし、俺にキスをする。



『やめてくれる?』


経済学部のクイーンにキスされた、なんて経済学部の野郎共には反感を買うかもしれないけど、俺は別に嬉しくもない。



『この間の司、すっごく良かったよ?
 今日の夜も司の部屋、行ってもいい?』


甘ったるしい声で誘われても、なんとも思わない。



『来ないでくれる?』


俺がそう言うと、唇を尖らせ、俺の腕をブンブンと振る。



『なんか勘違いしてる?
 俺、お前のこと好きでヤった訳じゃないから』


俺はそれだけ言い放ち、一人もくもくと歩いていく。



『7時に行くからねー!』


背後ではそんな声がしてるけど、俺の知ったこっちゃない。


雪奈から解放され、一人講義室まで歩いていると、悪友の浩二がやってきた。



『お前、経済学部のクイーン、雪奈も落としたわけ?』

浩二はお決まりのタバコを吸い、話しかけてくる。



『どうでもいい、ただ暇だったから相手してもらっただけ』


俺がそう言うと、浩二は、


『なんでこういう男がモテんのかね』


そう俺に問いかけてきた。



『知らね、女は結局顔、なんじゃね?』



俺はお決まりの言葉を口にする。


そう、女は結局顔、それさえよければみんな寄ってくる。



『出た、お決まりの言葉、そういうの口に出来るお前は本当にすごいよ』



浩二、なんもすごくねぇよ?


『…あ…』


自然と俺の足が止まる、それに合わせて浩二の足も止まる。


『司、どった?』

俺は答えない、代わりに視線を対象の人物に向けた。



『…?』


浩二は俺の視線の先にいる何人かの女のグループを見るも、俺の視線が向けられている、特定の女には気付いていない。


< 2 / 52 >

この作品をシェア

pagetop