あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。

―新しい世界

第三章 盛夏




第3節 新しい世界













新しい世界だ、



と思った。






特攻資料館の外のベンチに座り、涙が枯れるまで泣いて、



先生が買って来てくれたミネラルウォーターを一口飲んで、



ふと空を見上げたとき。






ここは新しい世界なんだ、と思った。





青く澄んだきれいな空。



ゆったりと流れていく白い雲。



ふわりと肌を撫でるそよ風。



風に吹かれてそよぐ緑。



目映い陽射し。






ここが、彼らの守ろうとした世界だ。




彼らが、自らの命を犠牲にしてまで叶えようとした、尊い平和だ。





空の真ん中を、飛行機が飛んでいくのが見えた。




白い飛行機雲が、青い空にぽっかりと浮かび上がる。






あたしは空を仰いだまま、ゆっくりと目を閉じた。




瞼に感じる太陽の熱。




あの時代には、こんなふうにのんびり空を見上げるとことさえできなかった。





空に浮かぶ飛行機の影に、だれもが怯えていた。





今は、この日本では、誰ひとり、頭上を飛ぶ旅客機に怯えたりしていない。





< 216 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop