マネー・ドール -人生の午後-

(4)

 大嫌いな冬が終わって、春を迎えた。花粉症は、多少つらいけど、寒いよりはずっといい。

 結局、私は、常務の『ありがたい』お話を、丁重にお断りし、子会社出向の話は、どうも、常務と、憎き人事部長、ユデダコ清水の画策だったようで、私は変わらず、企画部で、若い部下たちと過ごしている。
私を取り込むことで、常務は謀反を成立させて、ユデダコは、私を追い出せて、まあ、一石二鳥ってこと? まったく、これだから、オヤジはいやなのよ。

 残業禁止の企画部だけど、さすがに年度末は忙しくて、私はその処理と、これからの営業計画に追われ、将吾のことを思い出している余裕もなく、ほとんど毎日、遅くまでの会議にイライラして、ぐったりして家に帰って、でも、慶太のほうが、たぶん、猛烈に忙しくて、年明けからは、ほとんど顔を合わすこともできない日が続いていた。
 今までなら、どうせ女のところよね、とか、どっかで遊んでんでしょ、なんて、慶太の動向なんて、気にしない、っていうか、気にしないフリだったけど、今の私は、やっぱりちょっと、チクチクしちゃって、しつこく電話をかけちゃったり、メールをしてみたり。
ああ、こういうの、私的には、ちょっと……カッコ悪いんだけど。
 でも、慶太は、そのたびに私の相手をしてくれて、仕事だよ、ごめんねって、そのたびに謝って、わたしもそのたびに、こんなことで電話しちゃって、ごめんなさいって、寂しいのを我慢して、一人でこの大きなベッドで眠る毎日。
 もう何年も、自分の部屋の、小さなベッドで一人で眠っていたのに、なんだか不思議ね。
あのころは、寂しいなんて……ちょっと、思ってたのかな。自分でも気が付かなかったけど、きっと、寂しかったんだ、私。
慶太も、寂しかったよね。慶太はずっと、この大きなベッドで、一人で眠ってたんだもん。

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