不思議の国の女王様

*貴女に忠愛を

 
 椅子に腰掛け、姿見と向き合うとき。


 少しだけ、肩の力を抜いていられる。


 髪を梳く櫛と、ときおり首筋にふれる指の感触だけは、飾り気がないから。



「女王様、ずっと怖い顔をしていると、クセになってしまいます」



 頭上から落ちてくる言葉は、いつもより砕けて、やわらかい。



「生まれつきだ」


「眉間にシワが寄っています。多忙な宰相でも、そんな表情を常時継続するのは至難の業ですよ」


「ならば気にせねばよい。あやつらは、わらわが座る椅子にしか興味がない。

 このような小娘の顔色など、大理石の床に鼻を擦りつけているから見えるはずもない」



 ――ふいに、背後の動作が止まった。
 
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