2番目の唇

2



電話が鳴っている。

今夜3回目になる内線の呼び出し音。


誰もいない部屋で1人PCに向かっていた私は、キーを打つ手を止めて壁に掛けられた味気ない時計に目をやった。

PM 8:53

入社して6年目ともなると、時間外の内線にオロオロするような初々しさは無くなるものだ。

冷めた態度の理由はひとつ。
今夜の予定は特にないけれど、無駄な手間はできるだけ省いてさっさと終わらせたい。


まあ・・・それだけ。


もうとっくに退社時間を過ぎている今、かかってくる電話を無視しても、寛大な私の上司はきっと咎めないはずだ。


そう結論づけた私は冷静さを保ったまま、PCの液晶画面に視線を戻す。

本日の残業申請時間はPM 9:00

作成中のメールに“よろしくお願いします”を付け加えて送信すれば、上司への報告を含めても予定時間にすっきりと帰れる。


鳴り響く呼び出し音を無視して最後の一文を加えた私は、ざっと送り先と内容を確認するために目を走らせてから【送信】をクリックした。


ほとんど同じタイミングで、電話がピタリと鳴り止む。



< 3 / 14 >

この作品をシェア

pagetop