ワンルームで御曹司を飼う方法


【3】


 結城社長が我が家に住むようになってから一ヶ月が経った。その間に私の生活に起きた大きな変化がふたつある。

 ひとつは、この狭いワンルームにしょっちゅうお客さんが遊びに来るようになったと云う事だ。さすがに以前みたいに5人いっぺんにと云う事はないけれど、彼氏の三沢さんとケンカしたと言ってはうちに家出してくる狩野さんや、相変わらず社長に憧れて話を聞きたがる三沢さんに来栖さん。それから、あれ以来ぐっと仲良くなって会社でも休日でも一緒に過ごす事が多くなった兵藤さんに、大人しい性格がなんとなく合って仲良くなった布施さん。

 要はあの時以来仲良くなった5人が、なんのかんのとうちへやって来ることが多くなったのだ。まるで、イサミちゃんが居なくなってから今まで独りでいたのがウソみたいな賑やかな日々。気を使って疲れてしまう時もたまにあるけれど、その辺は兵藤さんが空気を読んで周りをたしなめてくれたりもする。

 一方の社長は、人が増えようが減ろうが一向に気にしないメンタルの持ち主なので、お客さんはいつでもウエルカムらしい。狩野さんや三沢さんみたいなバイタリティのある人でものらりくらりと交わせるのはさすがだと思う。

 みんなが遊びに来るようになって嬉しいサプライズといえば、必ずと言っていいほど手土産を持って来てくれる事だ。社長が文無しで転がり込んできたと知って、私に同情してくれてるらしい。食品だったりスーパーのクーポン券だったり、時には社長の着替えにとパジャマまで。おかげで困窮していた我が家の家計は随分救われることとなった。

 そしてもうひとつ。貧していた家計を救う驚くべき状況が訪れたのだ。それは、ある日の晩ご飯時――


「……宗根。今日は遠足か何かか?」

 食卓に置かれたその日のディナーをマジマジと眺めて、社長はおののいた表情で言う。けれど私はひとつ咳払いをすると努めて冷静に答えた。

「正真正銘これが今夜の晩ご飯です」

 テーブルに置かれているのは梅干のおにぎりがそれぞれ2個と、自家栽培の小松菜を入れた味噌汁だけ。これが我々の本日のディナーだ。

 私の答えを聞いた結城社長がなんとも情けない表情をして、こちらとテーブルを何度も見返していた。

 
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