悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

3.雨が告げた現実 -神威-



「徳力君、徳力君、起きて」

ポーン寮の自室。

何人かの寮生と一緒共同生活をしている
二段ベッドの下で眠っていたボクのところに
聞きなれたメイトロンの声が聞こえた。

何度も何度も呼ばれる名前に、
眼をこすりながら、ゆっくりと起き上がる。


「徳力君、眠たい時間にごめんなさいね。
 本当は朝まで待っていただきたかったんだけど、
 徳力君のお身内の方が切羽詰ってらっしゃるみたいで」

メイトロンが言葉にした身内の言葉に、
ボクは、神前悧羅学院昂燿校初等部の
一生徒のままではいられないのだと覚悟を決めた。


「メイトロン、すぐに準備して向かいます。
 まだ皆、眠ってるから」

「えぇ、そうね。
 まだ良い子は沢山眠ってる、夜中の三時だものね」


メイトロンはそう言うと、
足音を立てないように、静かに部屋を出ていった。


ベッドから抜け出して、音を立てないように
簡単に荷造りを済ませて、着替え終わると
寮の部屋を出て、一階のポーン寮の面会室へと向かった。




ボク、徳力神威【とくりき かむい】が生活している
このポーン寮は、全寮制の昂燿校の生徒たちの中で、
幼等部と初等部の生徒たちが共同生活をする空間。

そしてさっきボクを呼びに来た、
メイトロンは、一般的には寮母さん的な役割を持つ存在。

各寮にメイトロンとなる存在が、数人ずつ居て
いつも寮生活のサポートをしてくれる。

っと言っても、基本的には自主性を育て、自立を促すための
寮生活なので、殆どのことは、デューティーと呼ばれる専属の先輩が
ジュニアと言う直属の後輩を育てていく。


この場所では、初等部のボクは
ジュニアとしてデューティーの教えを忠実に学んでいけばいい。

だけどプライベートのボクは違う。



一族にとってのボクは、徳力家当主。

故郷に住む村人たちにとってのボクは、
徳力家当主が故に、生神【いきがみ】と呼ばれる存在。

母が亡くなり、父が亡くなった途端に
一族の決め事に従って、当主に就任したものの
ボクが何かが出来るわけじゃない。


まだ小学生の身で、大の大人たちと当主として
やりあわないといけない。


そんなボクにとって、
この浮世離れした隔離された空間。

神前悧羅学院の学園都市にいる間だけは、
『徳力』と言う家の重荷を忘れて、
生活できる空間だった。


そんな空間も、真夜中の来訪者によってすぐに打ち消される。




面接室のドアの前、深呼吸をして覚悟を決めると
当主として仮面を被って、
ボクはドアを開けた。



「お待たせしました」


そう言って面接室に入った時には、
メイトロンが用意した、お茶を飲みながら待っている大人が四人。

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