聴かせて、天辺の青
(10) 未来はここにある

◇ 君と見た群青色


気がついたら、夏は呆気なく終わっていた。



夏になったら一緒に泳ぎに行こうって、一緒に水着を買いに行こうって約束したのに。約束は果たされることなく、海棠さんは帰ってくることもなく、連絡なんて来るわけない。



夏の間中ずっと海水浴客の対応で大忙しだったおばちゃんの宿も、すっかりお客さんが途絶えた。もうしばらく経ったら発電所の定期検査のため、再び和田さんたちがやって来る。それまでの間は静かに体力温存の期間。



宿の仕事を手伝うこともないけれど、週に一度は必ずおばちゃんの顔を見ながら話しに行かなきゃ落ち着かない。



アルバイトを終えたら、おばちゃんの家に直行。
「ただいま」の挨拶に、和室にいるおばちゃんがにこやかな笑顔で迎えてくれる。



「おかえり、さっきね、和田さんから電話があったんだけど、この秋の定検は他の発電所の検査に行くことになったから、ここには来られないんだって」

「そうなの? 連絡遅いと思ってたら……もっと早く連絡してきてくれたらいいのにね」

「仕事が忙しいそうよ、明日から出張でバタバタしてるって言ってたわ」

「和田さん、大変そうだね。本郷さんと有田さんも来られないの?」

「うん、和田さんと三人セットだからね……」



おばちゃんが言葉を呑み込むように目を逸らした。きっと『寂しい』と言おうとしたんだろう。私だって同じ。今度来るのは春。年が明けて、三月初旬ぐらいになるかな。




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