きみと駆けるアイディールワールド―赤呪の章、セーブポイントから―

□戦神《クー》の星

 茅葺き屋根の平屋のコテージが、アタシたち宿だった。
「リゾート地のエキゾチックなホテルって感じね」
 籐のソファが涼しげでオシャレだ。アタシはソファに腰掛けて、すらりと長い脚を組んだ。ちなみに、現実のアタシも手足が長くて細身の体型だ。3D投射で作ったアバターだし、そんなに嘘はついてない。
 ラフはハンモックによじ登った。ニコルは、床に敷かれたキルトの上に腰を下ろした。ヒイアカも床に座っている。
 早速ですが、とヒイアカは切り出した。
「まずは、島の南の森へ行っていただきたいのです。そこには、オヘという名の精霊の少女が住んでいるのですが、このところ、彼女のやんちゃが目に余るのです」
「その子がどんなやんちゃをするの?」
「ニコルさま、聞いてくださいます? 月に一度、上弦の月のころ、オヘは人里に現れて貢ぎ物を要求するのだと……里の者たちが困っているようなのです」
「それって、やんちゃっていうか、もっと悪質な気がするんですけど」
「オヘは、もともと、力のある精霊ではありませんでした。むしろ、引っ込み思案でおとなしく、奥手でした」
「それが急にどうして?」
「ワタシは彼女の片想いを知っていました。オヘは、森を潤す雨の神に恋をしていたのです。彼女にホクラニを貸したのは、自信を持ってもらいたいからでした。ホクラニで身を飾った彼女は輝いていました。彼女は雨の神に想いを打ち明けました。けれど……」
 ヒイアカは目を伏せて、悲しそうに首を左右に振った。
 ニコルは肩をすくめた。
「ふられた腹いせにグレちゃったってところかな?」
 フアフアの村を案内されてる間に、なんとなく役割分担が成立している。
 ニコルがリーダー役。あれこれ指図するっていうわけじゃなくて、たとえば、三人まとめてヒイアカと会話するとき、ニコルのユーザがボタン操作をしたり合いの手を入れたりして、ヒイアカのAIに話の続きを促している。
 アタシにとっては、自動スクロールみたいな感じ。楽でいいわ。
 ヒイアカが話を再開する。
「オヘは失恋し、ひどく落ち込み、森の奥に引きこもってしまいました。泣き暮らしていたらしいのですが、その無念の思いがホクラニに作用したようなのです。あるとき人里に姿を現したオヘは、すっかり人が変わっていました」
「あらカワイソウ」
「お姫さま、言い方が冷たいぜ」
「見も知らぬ他人の恋バナなんて興味ないもの。とにかく、ホクラニを取り返して、オヘを正気に戻せばいいんでしょ?」
 アタシの言葉に、ヒイアカはうなずいて、うるんだ目でアタシたちを見つめた。
「このようなことになるなんて、ワタシが間違っていました。オヘにホクラニを貸さなければよかった。皆さま、お願いです。どうぞ彼女を救ってください」
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